11.ティモシー・モートンの環境哲学

                                                        

  ティモシー・モートン(Timothy Morton, 1968-)はイギリス・ロマン主義文学における食と表現の研究から次第に環境思想へと接近し、現在ではObject-Oriented-Ontologyの提唱者の一人として知られるようになった。キーツやシェリーを分析した『スパイスの詩学』 (2000年)で彼は、「いかにある特定の商品が比喩的言語を通して思想的に想像され、いかにある特定の比喩的言語や理論がその商品を通して思想的に想像されたか」を主題として追求した。(4)  そしてロマン主義の自然志向が近代社会への批判であるという考えは誤りであり、ロマン主義こそが資本主義のイデオロギーだと指摘した。しかし彼は、ロマン 主義文学は否定されるべきではなく、逆に資本主義を内包しているからこそ深く分析されるべきだと考える。なぜなら、現代の我々もまた新しい時代のロマン主 義を生きているからである。

モートンは 『自然なきエコロジー』(2007年)で文学の分析を離れ「自然」あるいは「場所」といった概念に関して批判的な考察を行った。彼の考えでは、近代の環境主義における「自然」は「それが実体であり、また象徴でもある」ものであり、それは「スパイス」同様ロマン主義的消費主義の言語なのである。(10)

 更に『エコロジーの思想』(2010年)で彼は「自然の否定としてのエコロジー」という考えをより一般的な思想として敷衍し、「不気味な他人」(strange-stranger)、「網の目」(mesh)そして「転位」(dislocation)と いったキーワードを用いてエコロジーの目的を「共生」であると宣言する。現代は二項対立的な背景と前景の関係が作る「世界」と「場所」の差異が消え、全て が網の目のように繋がったグーグルアースの時代であり、そこでは不気味な他人との関係構築が求められる。そうした要請に応える思想として彼はエコロジーを 再定義する。

 モートンは2013年に2冊の著作(『リアリズムの魔術』『ハイパーオブジェクト』)を刊行した。彼はこれらの著書でObject-Oriented-Ontologyの 哲学を全面的に展開している。カントは物質を現象と物自体を分け、あらゆる現象はアプリオリに時間・空間に規定されており、人は物自体に到達出来ないと考 えたが、モートンはカント哲学を脱人間化し、物質が時間・空間を表出し人間も共物質的に存在すると考えることで、人間の感覚をはるかに超えた地球環境の危機に対応する思想に辿り着こうとする。(224)モートンにとっては、不可視のものを可視化する思想としてのObject-Oriented-Ontologyこそが、地球温暖化や放射能汚染のように宇宙、生態圏、科学技術や人間社会の様々な要素が複雑に絡み合い、人間の感覚だけでは最早知覚することができない「ハイパーオブジェクト」の時代に対応する哲学なのである。


 

【参考文献】

  Morton, Timothy

The Poetics of Spice: Romantic Consumption and the Exotic Cambridge UP, 2000. 282pp.

Cultures of Taste/Theories of Appetite Palgrave Macmillan, 2004. 288pp. (edited by Morton)

Ecology Without Nature: Rethinking Environmental Aesthetics Harvard UP, 2007. 249pp.

The Ecological Thought  Harvard University Press, 2010. 163pp.

Realist Magic Objects, Ontology, Causality Open Humanities Press, 2013. 223pp.

Hyperobjects: Phylosophy and Ecology after the End of the World Minnesota UP, 2013. 229pp.


                                                                                                              (芳賀 浩一)

 



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